さがみひまわり健康大学
鉄欠乏性貧血:原因と症状、診断
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Q1.なぜ、鉄欠乏性貧血になるのですか?
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鉄欠乏性貧血は、慢性的な出血ないし鉄吸収不足によっておこる貧血です。
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鉄欠乏の原因は、年齢や性別によって異なります。過度なダイエットやヴィーガン、鉄吸収が障害されている胃腸病(クローン病など)では鉄摂取量不足となります。ピロリ菌による慢性胃炎では鉄欠乏になりやすいといわれています。成長期や妊婦、授乳婦では鉄需要が増大するため、鉄が不足しがちです。月経のある女性や子宮筋腫などによる月経過多・不整性器出血、鎮痛薬・アスピリンの内服による消化性潰瘍や胃癌、大腸癌による出血などで鉄排出増加となります。
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鉄欠乏性貧血と診断されたら、鉄欠乏の原因を調べる必要があります。若年女性の原因の大部分は月経ですので、あまり心配はいりません。中年以降の男性では、胃癌や大腸癌が隠れていることがよくありますので必ず検査を受けてください。中年以降の女性では、胃癌・大腸癌の検査に加えて、子宮筋腫や子宮癌の検査を受けてください。まれに、腎臓や膀胱の病気による慢性的な出血が原因となることがあります。
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スポーツ貧血:マラソンなど激しいスポーツをやると、足裏の毛細血管を通る赤血球がつぶされて壊れ、ヘモグロビンが尿から排出されます。ヘモグロビンの中に鉄が入っているので、鉄欠乏になります。尿にヘモグロビンが出てくると、尿の色が赤黒くなります。
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セリアック病:グルテンにアレルギーのある方は、グルテンを含んだ食事をとることにより、小腸が炎症をおこして、鉄を含む複数の栄養素が吸収できなくなり、鉄欠乏性貧血になります。鉄剤を飲んでもなかなかよくならない方の中にこの病気の患者さんがおられます。グルテンフリーの食事をとり、腸の炎症をおこさないようにすることが重要です。
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遺伝性出血性毛細血管拡張症:毛細血管の拡張とそこからの出血を特徴とする遺伝性の病気です。鼻出血や口腔内出血、消化管出血を頻回におこし、鉄欠乏性貧血となります。脳や肺などに血管奇形があることが多く、そこから出血すると重篤な状態になることがあるので、精査が必要です。
Q2.鉄欠乏性貧血に特有の症状はありますか?
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鉄欠乏性貧血は、ゆっくりと進行するため、無症状のことも多いのですが、一般的な症状には、動いたときに感じる動悸や息切れ(労作時動悸・息切れ)、立ちくらみがあります。
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鉄欠乏による特有の症状としては、異食症があります。粘土や土といった食べ物でないものを食べたり、氷を頻繁に食べる摂食行動です。
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プランマー・ヴィンソン症候群:重症の鉄欠乏では、貧血だけでなく、粘膜や皮膚の萎縮がおこり、舌の表面がツルツルになって痛む(舌炎)、食べ物が飲み込みにくい、のどや胸につかえる(嚥下障害)、爪が反り返る(匙状爪)といった症状が現れます。このような症状を伴うものをプランマー・ヴィンソン症候群とよびます。舌炎・口角炎、匙状爪は鉄剤の内服によりよくなりますが、嚥下障害は内視鏡的な治療が必要となることがあります。また、舌癌や下咽頭癌、食道癌など癌が高率(4.5%)に発症するので定期的な検査が必要です。[1]
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重症の鉄欠乏では、甲状腺の働きが悪くなり、寒がりやむくみ、疲れやすさなどの症状が出ることがあります。
[1] 引用文献DOI: 10.1111/jgh.15139
Q3.鉄欠乏性貧血はどのように診断されますか?
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MCVが80未満の貧血があり、総鉄結合能の増加、フェリチン値の減少が認められた場合に、鉄欠乏性貧血と診断します。貧血がない鉄欠乏を潜在的鉄欠乏といいます。
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性別と年齢に基づいて貧血の原因を探すことが重要です。一般的に、上部消化管内視鏡 検査、便潜血反応2回法、ピロリ菌検査を行います。女性の方は、これらに加えて婦人科的検査(超音波検査や子宮癌検査など)を行います。便潜血反応2回法で1回でも陽性となった場合には、下部消化管内視鏡検査を受けてください。便通異常や腹痛がある方は、便 潜血の有無にかかわらず下部消化管内視鏡検査を受けてください。なお、便潜血反応は、 小腸・大腸からの出血を調べる検査で、食道、胃、十二指腸からの出血は検出できません。
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若年女性の原因はほとんどが月経なので、内視鏡検査は省略することがあります。
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まれに、腎臓や膀胱の病気が原因となることがあるので、尿検査や超音波検査を行い ます。
引用文献DOI: 10.1111/jgh.15139