さがみひまわり健康大学
鉄欠乏性貧血:鉄剤不応性
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Q1.鉄欠乏性貧血で鉄剤を内服していますが、貧血が良くなりません。
どうしたらよいですか?
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経口鉄剤を1日100mg以上、4~6週間内服してもヘモグロビン濃度が1g/dL以上増加しない場合、経口鉄剤が効かない鉄剤不応性と判断します。
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鉄剤不応性の原因として、次のようなことが考えられます。
1. 鉄吸収が著しく低下している。
2. 鉄欠乏性貧血ではない。
3. 鉄欠乏性貧血に加えて他の原因がある。
4. 出血量が多いため補充が間に合わない。
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まずは、経口鉄剤が効かない原因を突き止める必要があります。
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鉄吸収が著しく低下している場合は、十二指腸の切除術後などの鉄吸収部位の欠損、胃切除や高度な萎縮性胃炎などによる胃酸分泌不全、があります。萎縮性胃炎の原因には、ピロリ菌感染と自己免疫性があります。また、グルテンに対するアレルギーによっておこる腸の炎症で鉄を含む複数の栄養素が吸収不良となるセリアック病、クローン病、その他の吸収不良症候群があります。
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鉄欠乏性貧血でない場合とは、小球性貧血を呈する他の疾患を誤って鉄欠乏性貧血と診断した場合です。このような疾患には、慢性疾患に伴う貧血、薬の副作用による鉄芽球性貧血、サラセミア、まれな疾患として、無トランスフェリン血症、鉄剤不応性鉄欠乏性貧血があります。通常、小球性ではありませんが、骨髄異形成症候群も考慮します。
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鉄欠乏性貧血に加えて他の原因がある場合には、スポーツ貧血、溶血性貧血、巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏)、腎性貧血、甲状腺機能低下症による貧血などがあります。スポーツ貧血は溶血性貧血の一種ですが、血管の中で溶血がおこるためヘモグロビンが尿から排出されて鉄を失います。ビタミンB12欠乏は自己免疫性萎縮性胃炎や胃全摘術によっておこり、ビタミンB12の吸収が悪くなるだけでなく、鉄の吸収も悪くなります。葉酸欠乏は高齢者で栄養摂取不足の方に多いため、鉄分の摂取不足を伴っていることが多いです。腎性貧血や甲状腺機能低下症は、特に高齢者ではそれとは気づかれないことが多い疾患です。腎性貧血では、ヘプシジンの増加によって慢性疾患に伴う貧血のような病状を呈することがあります。甲状腺機能低下症では、鉄やビタミンB12の吸収障害による鉄欠乏を伴うことがあります。また、鉄欠乏により甲状腺機能が低下するといわれています。
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出血量が多いため補充が間に合わない場合としては、胃癌や大腸癌といった消化管の悪性腫瘍、大腸憩室出血、子宮筋腫による過多月経、子宮癌による不整性器出血、腎癌や膀胱癌など尿路系の悪性腫瘍、遺伝性出血性毛細血管拡張症といった疾患があります。100mLの出血で40mgの鉄を失います。経口鉄剤100mgの内服で15mgが吸収されるとすると、1日40mL以上の出血があると推定されます。ただし、鉄欠乏性貧血では鉄剤の吸収効率は健常人より高く、貧血のため血液100mL中の鉄量はより少ないので、出血量は40mLより多い可能性があります。
Q2.貧血の治療はどうしたらよいでしょう? 鉄剤の注射は効きますか?
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鉄吸収が著しく低下している十二指腸の切除術後などの鉄吸収部位の欠損、胃切除や高度な萎縮性胃炎などによる胃酸分泌不全では、鉄剤の注射が有効です。ただし、自己免疫性萎縮性胃炎では、赤血球を作るのに必要なビタミンB12の吸収も悪くなっているので、ビタミンB12の補充も必要になります。ビタミンB12は内服薬で治療が可能です。セリアック病でも鉄以外に造血に必要なビタミンB12と葉酸が欠乏しているので、鉄剤の注射とビタミンB12、葉酸の補充を行います。グルテンによる小腸の炎症があるので、慢性疾患に伴う貧血も合併している可能性があります。グルテン・フリー食で小腸の炎症が改善すれば、経口鉄剤に変えることが可能です。
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鉄欠乏性貧血でない場合は、鉄剤不応性鉄欠乏性貧血を除いて鉄剤の注射は効果はありません。それどころか鉄分がたまって健康を損ねることもあります。それぞれの原因に合った治療を行います。
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鉄欠乏性貧血に加えて他の原因がある場合には、原因に対する対応を行いながら鉄剤の内服ないし注射を行います。
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出血量が多く補充が間に合わない場合は、まず、出血の原因を探り、それに対応して出血量を減らします。鉄の消化管からの吸収が正常であれば内服で、吸収障害があれば注射で補います。