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溶血性貧血:総論

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Q1

Q1.溶血性貧血とは?

  • 溶血性貧血とは、何らかの機序によって赤血球が体内で破壊され、貧血を生じた状態です。赤血球が作られる過程に異常はなく、貧血によりエリスロポエチンが増加するため、骨髄での赤血球造血が進します。
  • 溶血性貧血の症状は、動、息切れ、立ちくらみといった貧血症状に加えて、白眼が黄色くなる臓の脹れ()、赤褐色の尿(ヘモグロビン尿)を呈することがあります。溶血が急速に進行すると、急性心不全となることがあります。また、血栓症をおこすことがあります。
  • 検査所見としては、正球性(MCV 80以上100未満)から大球性貧血(MCV 100以上)、網赤血球増加、総ビリルビン増加、特に間接ビリルビン増加LD増加ハプトグロビン減少が認められます。
  • 溶血には、血液中で赤血球が破壊される血管内溶血臓で赤血球が破壊される血管外溶血の二種類があります。
  • 血管内溶血では、ヘモグロビンが尿中に出てくるヘモグロビン尿を呈することが特徴で、血色素尿症と名付けられています。尿潜血陽性かつ尿中赤血球陰性、尿中ヘモジデリン陽性となります。(『貧血の検査』参照)

Q2.溶血性貧血原因は?

  • 以下のように6つの機序に大別されます。

  • 免疫機序によるもの:赤血球に対する自己抗体が作られることにより溶血をきたします。37で活性をもつ温式抗体と37より低温で活性をもつ冷式抗体があります。

    • 自己免疫性溶血性貧血(温式抗体)

    • 寒冷凝集素症(冷式抗体)

    • 発作性寒冷血色素尿症(冷式抗体)

    • 薬剤性溶血性貧血

  • 補体感受性進によるもの:補体は活性化されると細胞膜に結合して穴を開け、細胞を破壊するたんぱくで、主に細菌感染時に活性化されて細菌を破壊します。ヒトの細胞には補体による細胞破壊を防ぐ機構がありますが、何らかの原因で血液細胞の防御機構が失われると補体活性化により溶血がおこります。

    • 発作性夜間血色素尿症

  • 機械的ストレスによるもの:血管障害や外力による溶血です。外力によって破壊された赤血球(破砕赤血球)が増加することが特徴です。

    • 心臓弁膜症、人工弁、心臓内パッチ修復

    • 微小血管障害:血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群、播種性血管内凝固、悪性高血圧症、妊娠高血圧腎症(HELLP症候群、子前症)など

    • 行軍貧血(スポーツ貧血)

  • 酸化ストレスによるもの:赤血球は酸素を運搬するため、活性酸素が発生しやすく、常に有害な酸化ストレスにさらされています。酸化ストレスを緩和する機構の障害によりヘモグロビンが酸化され、溶血をおこします。

    • グルコース6リン酸脱水素酵素欠損症

    • 中毒性溶血性貧血

    • 不安定ヘモグロビン症

  • ​先天性疾患によるもの:赤血球形態の異常やヘモグロビンの構造異常、糖代謝経路の異常があります。

    • 遺伝性球状赤血球症

    • 遺伝性楕円赤血球症

    • 遺伝性有口赤血球症

    • 不安定ヘモグロビン症

    • 鎌状赤血球症

    • サラセミア

    • ピルビン酸キナーゼ欠損症

    • 感染症・毒素・その他によるもの

    • マラリア

    • バベシア

    • ウェルシュ菌

    • αおよびβ溶血性レンサ球菌

    • 髄膜炎菌

    • 蛇毒

    • 低リン血症

Q2

Q3.どのように診断しますか?

  • 診断するための検査などは以下の通りです。

  • 免疫機序によるもの

    • 自己免疫性溶血性貧血:直接クームス試験陽性

    • 寒冷凝集素症:寒冷凝集素陽性

    • 発作性寒冷血色素尿症:ドナート・ランドシュタイナー抗体陽性

  • 発作性夜間血色素尿症

    • 細胞表面抗原CD55, CD59の欠損

    • 血管内溶血所見(尿潜血陽性、尿中赤血球陰性、尿中ヘモジデリン陽性)

  • 機械的ストレスによるもの:破砕赤血球増加、血管内溶血所見

    • 血栓性血小板減少性紫斑病:血小板減少、意識障害やけいれんなどの神経症状、腎機能障害、ADAMTS13活性低下、抗ADAMTS13抗体陽性

    • 溶血性尿毒症症候群:血性下痢便、血小板減少、腎機能障害、意識障害やけいれんなどの神経症状、便中志賀毒素陽性

  • 酸化ストレスによるもの:ハインツ小体陽性

    • グルコース6リン酸脱水素酵素欠損症:男性、家族歴、酸化薬物摂取歴

  • 先天性疾患によるもの:家族歴、赤血球形態(球状赤血球、楕円赤血球、標的赤血球など)、赤血球膜抵抗試験、腫、胆石

  • 感染症・毒素・その他

    • マラリア:マラリア流行地域への渡航歴、周期熱、腫、血管内溶血、赤血球内のマラリア原虫

    • バベシア:米国(特に北東部)への渡航歴、発熱、血管内溶血、赤血球内バベシア原虫

    • 鉛中毒:曝露歴、血中鉛濃度上昇、小球性貧血、赤血球内好塩基性斑点

Q3

ワンポイント医学知識

抗体は、細菌など微生物の細胞表面にあるたんぱくに結合します。しかし、抗体が細菌に結合しただけでは細菌を排除できません。好中球やマクロファージに貪食されるか、補体活性化による溶菌がおこるかの何れかにより排除されます。抗体が結合すると補体が活性化され、補体が細胞壁(膜)に穴を開けて溶菌をおこします。穴を開ける物質を膜侵襲複合体とよびます。補体とは、複数のたんぱくから構成される免疫システムで、補体系とよばれます。膜侵襲複合体は5種類のたんぱくから構成されています。補体系を活性化する経路には、抗体依存性の経路(古典経路)と非依存性の経路(別経路、レクチン経路)があります。発作性夜間血色素尿症では、別経路により活性化された補体が溶血をおこします。その他、補体には好中球などを呼び寄せる効果や貪食を促進する効果があります。

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